【健康寿命】「歩けば健康」って本当?その落とし穴を検証する

「とにかく歩けば健康にいい」「1日〇〇歩を目標に」といった言葉を、テレビや本、ネットなどで目にすることが増えました。実際、歩くことが心と体の健康に役立つ可能性がある、という研究結果はたくさん出ています。
一方で、「姿勢が悪いまま」「速さや距離だけを追いかける」「痛みをガマンして歩き続ける」など、やり方によっては、関節や心臓に負担がかかる場合もあります。
この記事では、40〜70代の方に向けて、
- 「歩けば健康」のどこまでが本当なのか
- やり方を間違えると、どんな落とし穴があるのか
- 健康寿命をのばす“質の良いウォーキング”のポイント
を、できるだけわかりやすく整理していきます。
なお、ここでお伝えする内容は、私自身の経験や公的機関などの情報を参考にした一般的な健康情報です。具体的な病気の診断や治療を行うものではありません。
「痛みが強い」「息切れがひどい」「持病がある」など気になる症状がある場合は、自己判断せず、かかりつけの医師や専門機関にご相談ください。
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「歩けば健康」は半分正解、半分は注意が必要
● なぜ「歩くこと」が勧められているのか
まず、大前提として「毎日の生活の中でできるだけ体を動かしましょう」という方向性は、国の方針としても示されています。
例えば、厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、成人に向けて、
- 歩行などの3メッツ以上(※やや息が弾む程度)の身体活動を、1日60分程度行うこと
- ただし、年齢や体力などの個人差を踏まえて、強度や量を調整し、できることから始めること
といった考え方が示されています。
参考:厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023(概要)」
また、東京都健康長寿医療センター研究所が関わる「中之条研究」などでは、
- 1日8,000歩前後
- そのうち20分ほどの「中強度」の速歩きが含まれる
といった活動量が、生活習慣病予防や健康寿命と関係している可能性がある、と報告されています。
参考:地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター「健康長寿に効果的なウォーキング」
このように、「ある程度しっかり歩くこと」は、健康に良い影響があると考えられているのは確かです。
● 「量」だけでなく「歩き方」も大切だと分かってきた
最近の研究では、歩数だけでなく、
- どのくらいの強さ(速さ)で歩いているか
- 姿勢やバランスはどうか
- 膝や腰に痛みが出ていないか
など、「質」の部分も健康寿命と関係していることが分かってきています。
たとえば、同じ8,000歩でも、
- 猫背でスマホを見ながら、ズルズルと足を引きずるように歩く
- 背筋を伸ばし、視線を前に向けて、リズムよく腕を振りながら歩く
では、体にかかる負担も、得られるメリットもかなり違ってきます。
次の章では、「歩けば健康」というイメージの裏側にある、代表的な落とし穴を見ていきましょう。
「歩けば健康」の落とし穴5つ
1. 姿勢が崩れたまま歩き続けてしまう
一番よく見かけるのが、頭だけが前に出た「猫背歩き」です。
猫背のまま歩くと、
- 頭の重さを首や肩だけで支えることになり、こりや頭痛の原因になりやすい
- 背中が丸まることで、肺が十分にふくらまず、息が浅くなりやすい
- 骨盤が後ろに倒れ、腰や膝に負担がかかりやすい
といったデメリットがあると指摘されています。
特に、スマホを見ながら下を向いて歩く「ながら歩き」は、転倒リスクも高くなりますし、まわりへの危険もあり、おすすめしづらい習慣です。
まずは、「立ち姿勢を整えてから歩き出す」ことを意識してみると、体への負担がかなり変わってきます。(詳しい姿勢のポイントは後半でまとめます)
2. 「速さ」だけを求めて息が上がりすぎる
ニュースや本で「速歩きが良い」と聞くと、つい競歩のようなスピードで歩きたくなってしまうかもしれません。
たしかに、少し息が弾むくらいの「中強度」の運動は、心肺機能や血管の健康に良い影響があるとされています。しかし、
- 会話がまったくできないほどゼエゼエする
- 動悸や胸の苦しさを感じる
- 翌日までぐったりしてしまう
といった状態は、40〜70代の方にとっては負担が大きすぎる場合もあります。
奈良県がまとめた健康づくり資料でも、「中強度の活動は、会話はできるが歌うのは難しい程度」といった目安が紹介されています。
参考:奈良県「おでかけ健康法パンフレット」
「速く歩こう」と頑張りすぎるより、「息が少し弾むけれど、となりの人と会話はできる」くらいのペースを意識すると、体への負担と健康づくりのバランスがとりやすくなります。
3. 痛みをガマンして距離や歩数を伸ばしてしまう
まじめな方ほど、
- 「膝が痛いけれど、歩かないともっと悪くなりそう」
- 「ここでやめたら意思が弱い気がする」
と考えて、痛みをガマンしながら歩き続けてしまうことがあります。
たしかに、適度な運動は膝関節の健康に役立つ可能性があり、ウォーキングをしている人はしていない人より膝の痛みが少ない、という報告もあります。ただし、それは「痛みをうまくコントロールしながら、無理のない範囲で行う」ことが前提です。
特に、
- 歩きはじめから鋭い痛みがある
- 歩いているうちに痛みがどんどん強くなる
- 膝や足首が腫れてきたり、熱を持ったりする
といった場合は、いったん中止して休むこと、そして必要に応じて医療機関で相談することが大切です。
「痛みに耐えて頑張るほど健康になる」という考え方は、健康寿命の視点では、あまりおすすめしづらい考え方です。
4. 靴・路面・荷物が体に合っていない
歩くときの環境も、体への負担に大きく影響します。
- クッション性の弱い革靴やパンプスで長時間歩く
- サンダルやかかとの浅い靴でペタペタと歩く
- 重いバッグをいつも同じ側の肩にかけて歩く
- 硬いアスファルトの上を、衝撃を逃がせない歩き方で歩く
こうした条件が重なると、足裏・膝・腰にかかる負担はどうしても増えやすくなります。
できれば、
- かかとにある程度のクッション性があるスニーカー
- つま先が少し反り上がり、足の曲がる位置と靴底の曲がる位置が近いもの
- リュックサックやショルダーバッグを左右で持ち替えるなど、荷物の重さを分散する工夫
といった点を意識するだけでも、関節への負担がやわらぐ感覚が得られる方が多いようです。
5. 「歩数」だけを追いかけてしまう
万歩計やスマホアプリで歩数が見えると、「昨日より多く」「目標は1万歩」と、つい数字だけを追いかけてしまいがちです。
しかし、先ほどの中之条研究や東京都健康長寿医療センターの情報を見ても、
- 健康と関係しているのは「歩数」と「中強度の時間」の両方
- ただ歩数が多いだけでなく、一定時間「やや息が弾む」強度で歩いているかも大切
- 何より「その人にとって無理がない範囲」で行うこと
が強調されています。
つまり、「1日〇〇歩を達成できなかった=失敗」ではなく、今の自分の体力や生活リズムに合わせて、気持ちよく続けられるラインを探ることの方がずっと大切だと言えそうです。
健康寿命をのばす「質の良いウォーキング」4つの基本
ここからは、体への負担をできるだけ減らしつつ、健康寿命の土台づくりにつなげていくための「質の良いウォーキング」のポイントを整理していきます。
あくまで目安なので、すべて完璧にやる必要はありません。「これなら取り入れられそうだ」と思うものから、少しずつ試してみてください。
1. 姿勢:耳・肩・腰・くるぶしが「一本の柱」をイメージ
立ち止まった状態で、次のような流れで姿勢を整えてみます。
- 足をこぶし一つ分くらい開き、軽くひざをゆるめる
- おへその少し下あたり(丹田)にそっと力を入れるイメージ
- 頭のてっぺんから糸でつられているように、スッと背筋を伸ばす
- 耳・肩・腰・くるぶしが、横から見て一本の柱になるように意識する
肩に力が入りすぎてしまう場合は、一度ギュッとすくめてストンと落とし、力を抜いてから歩き出すと、自然な姿勢を作りやすくなります。
2. ペース:会話ができる「やや早歩き」
ペースの目安としてよく使われるのが、いわゆる「トークテスト」です。
- 楽々おしゃべりできる → 少し物足りない強度かもしれない
- 短い言葉なら会話できる → 中強度に近い、ちょうど良いペース
- 一言二言も話せない → 負荷が強すぎる可能性がある
40〜70代の方であれば、「短い言葉なら交わせるくらい」を一つの目安にしてみると、息切れしすぎずに続けやすい印象があります。
日によっては、
- 体が重い
- 寝不足が続いている
- 気温が高い・低い
などの理由で、同じペースでもキツく感じることがあります。そんなときは、「今日はのんびり歩きの日にしよう」と自分にOKを出すことも、長く続ける意味ではとても大切な工夫です。
3. 歩幅と足の着地:小さめスタートで「スッ・トン・スッ・トン」
テレビなどで「大股で歩きましょう」と言われることがありますが、いきなり大きく足を踏み出すと、股関節や膝への負担が増えてしまう場合もあります。
最初は、
- 普段よりほんの少しだけ歩幅を広くする
- かかとから静かに着地し、足裏全体で体重を受け、つま先でやさしく蹴り出す
というイメージで、「スッ・トン・スッ・トン」とリズムよく歩くことから始めてみてください。
慣れてきたら、自然と歩幅は広がっていきます。「一気に理想のフォームを完成させよう」と思う必要はありません。
4. 呼吸:3歩で吸って3歩で吐くイメージ
呼吸は、特に難しいルールはありませんが、
- 鼻から吸って口から吐く
- 「3歩で吸って3歩で吐く」など、自分なりのリズムを決める
といった簡単なルールを決めておくと、呼吸が浅くなるのを防ぎやすくなります。
呼吸に意識を向けることは、ストレスケアの面でも役立つと言われています。日々のモヤモヤや不安を抱えているときこそ、「呼吸の音」を感じながら歩く時間が、心の整理にもつながるかもしれません。
関節・心臓を守るウォーキングの「安全チェック」
● こんなサインが出たらいったん立ち止まる
健康寿命を意識したウォーキングでは、「頑張る」よりも「安全に続ける」ことが最優先です。次のようなサインが出たときは、いったん立ち止まって休むことをおすすめします。
- 胸の痛みや圧迫感、強い息切れ、動悸
- めまい、ふらつき、冷や汗
- 膝・足首・股関節などに、鋭い痛みが出る
- いつもと違うしびれや違和感が続く
休んでも症状が続く、あるいは悪化する場合は、迷わず医療機関に相談してください。特に心臓や脳に関係する症状は、早めの対応が何より重要です。
● 持病がある人は「かかりつけ医」と二人三脚で
高血圧・糖尿病・心疾患・腎臓病などの持病がある方ほど、「歩いても大丈夫なのか」「どこまでやっていいのか」が気になるところだと思います。
最近は、こうした持病がある方に対しても、運動を上手に取り入れることが病状の安定やQOL(生活の質)の向上につながるという考え方が広がってきています。
とはいえ、
- 薬の種類や量
- 血圧・血糖値の状態
- 心電図や血液検査の結果
などによって、「ちょうど良い運動量」は人それぞれです。
持病がある方は、かかりつけ医に「自分に合ったウォーキングの目安」を相談するところから始めてみてください。
私自身も、高血圧ぎみだった頃に医師と相談しながら運動を少しずつ増やしていきました。持病がある中で運動を始めるときの考え方については、私がまとめた以下の記事も参考になるかもしれません。
糖尿病・高血圧など持病があってもライザップに入会できますか??
ジムに通う・通わないにかかわらず、「医師と相談しながら、自分に合う運動を見つけていく」というスタンスは、ウォーキングにもそのまま当てはまると感じています。
歩くことを「楽しみ」に変える工夫いろいろ
健康寿命のためとはいえ、楽しくないことは続きません。ここでは、歩くことを「ノルマ」ではなく「ちょっとした楽しみ」に変えていくためのアイデアをいくつか紹介します。
1. 「目的地」をセットして、小さな旅気分で歩く
ただ家の周りをぐるぐる回るだけだと、どうしても飽きてしまいます。そこでおすすめなのが、
- お気に入りのパン屋さんまで歩く
- 近所の神社や公園を巡る小さなコースを作る
- 季節ごとの花が咲くスポットを探す
といった「目的地つきウォーキング」です。
「せっかくここまで歩いたから、今日はあのお店でコーヒーを飲んで帰ろう」など、小さなごほうびを組み合わせると、歩くことそのものが楽しみになっていきます。
2. 「昨日の自分」とだけ比べる
万歩計やスマホアプリで歩数を記録する場合、
- 他人と比べて落ち込む
- 「目標未達=ダメな自分」と感じてしまう
といったストレスを抱えてしまう方も少なくありません。
おすすめなのは、「昨日の自分」とだけ比べることです。
- 昨日より100歩多かった → じゅうぶんOK
- 昨日より少なかった → 今日は休養日。明日また歩ければOK
このくらいのゆるさで付き合っていくと、「歩くこと=自分を責める材料」ではなく、「自分をねぎらうきっかけ」に変わっていきます。
3. 体調や天候に合わせた「代替プラン」を用意しておく
雨の日や猛暑日、体調がいまひとつの日に、「歩けなかったから失敗だ」と感じてしまうのはもったいないことです。
そんな日は、
- 室内での足踏みや軽いストレッチ
- 椅子に座ったままの体操
- 立ち座りをゆっくり繰り返す
などの「代替メニュー」を、あらかじめいくつか用意しておくと安心です。
厚生労働省のガイドでも、「歩行などの運動だけでなく、家事や庭いじり、立ち仕事などの軽い活動も含めて、できるものから取り組む」ことが勧められています。
参考:厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023(成人版)」
「今日は外を歩かなかったけれど、室内でこんな動きをした」といった視点で、自分を肯定していけると、運動との付き合い方がぐっと楽になります。
4. だれかと一緒に、ゆるく続ける
一人で歩く時間は、それはそれで心地いいものですが、時々は、
- 家族と一緒に近所を散歩する
- 友人と「おしゃべりウォーキング」の約束をする
- 地域のウォーキングイベントに参加してみる
といった「誰かと歩く時間」もおすすめです。
会話をしながら歩くことで、自然と「中強度くらい」のペースになりやすく、メンタル面のリフレッシュにもつながります。
まとめ:「歩けば健康」は、あなた仕様にアレンジしたときに本物になる
最後に、この記事のポイントを振り返っておきます。
- 歩くこと自体は、健康寿命を支える大切な習慣の一つと考えられている
- ただし、「姿勢」「速さ」「痛み」「靴や路面」「歩数だけを追う」といった落とし穴もある
- 耳・肩・腰・くるぶしを一本の線で意識し、会話できるくらいのペースで、静かな足音で歩くことが「質の良いウォーキング」の基本
- 痛みや強い息切れなどのサインが出たら、がんばりすぎず、いったん休んで医療機関に相談する
- 歩数や距離の「ノルマ」にとらわれず、目的地やごほうび、代替メニューなどを用意して、楽しみながら続ける工夫が大切
人生の後半は、「若い頃と同じように頑張る」ことよりも、「今の自分の体と相談しながら、ちょうどいいラインを探していく」ことが大事になってきます。
歩くことも同じです。
「歩けば健康」ではなく、「自分に合った歩き方を見つければ、健康寿命の強い味方になる」——そんなイメージで、今日から一緒に一歩ずつ、歩き方を整えていけたらうれしいです。
無理のないペースで、あなたの「ちょうどいいウォーキングスタイル」を育てていきましょう。

