【健康寿命】旅行よりも効果的?“日常の非日常”で脳が若返る

人生の後半になってくると、「若いころのように遠くまで旅行に行く体力はないけれど、なんとなく毎日が同じでつまらない」という声をよく聞きます。SNSを開けば、海外旅行や豪華な列車旅の写真がたくさん流れてきて、「ああいうことができない自分は、刺激の少ないつまらない毎日なのかな」と感じてしまうこともあるかもしれません。
でも、健康寿命という視点で見ると、脳や心にとって大事なのは「高価な旅行」ではなく、「日常の中に、ちょっとした変化や発見があること」だと考えられています。遠くへ行けなくても、いつもの道を一本ずらして歩いてみるだけで、脳には新しい情報がどんどん流れ込んできます。
この記事では、40〜70代の方に向けて、「旅行ほど大げさではないけれど、日常の延長でできるミニ冒険=“日常の非日常”」をテーマにお話しします。お金も時間もあまりかけず、体力にもやさしい形で、脳をほどよくワクワクさせるコツを、一緒に考えていきましょう。
なお、ここでご紹介する内容は、医療や治療の話ではありません。「こんな工夫も脳や心の活性化に役立つと考えられているんだな」という、生活のヒントとして、気楽に読んでいただけたらうれしいです。
専門的な内容については、たとえば厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」や、国立長寿医療研究センターの認知症予防コラムなどでも、日常生活での運動や趣味活動が心身の健康に良い影響をもたらす可能性が紹介されています。気になる方は、そちらも参考にしてみてください。
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「日常の非日常」って、どんなもの?
「日常の非日常」と聞くと、少し不思議な言葉に感じるかもしれません。ここでは、「大きな予定変更ではないけれど、いつもと少し違う選択をしてみること」と考えてみます。
- いつもの散歩コースを、一本手前の角で曲がってみる
- いつもスーパーで済ませるところを、今日は個人商店や市場をのぞいてみる
- 自宅から二駅ぶんだけ電車に乗って、そのあたりをぶらぶら歩いてみる
- チェーン店ではなく、小さなカフェや喫茶店に入ってみる
- 家の中でも、いつもと違う椅子に座って食事をしてみる
どれも、特別な準備はほとんどいりません。ただ、「いつものパターンを、ほんの少し変えてみる」だけです。旅行会社に申し込む必要もなければ、丸一日空ける必要もありません。
脳は「新しいもの」「予想外のもの」に出会うと、周りの状況をよく観察しようとして、さまざまな情報処理を行うと考えられています。そのため、同じ道・同じ店・同じ会話だけで一日が終わるよりも、小さな変化があった日のほうが、脳はよく働いている可能性があるわけですね。
なぜ「小さな変化」が脳の若さにつながると考えられているのか
加齢とともに、私たちの脳の処理速度や記憶力は少しずつ変化していくと言われています。ただ、そのスピードには個人差が大きく、「年齢のわりに頭が柔らかい人」「新しいことにスッと慣れる人」もたくさんいます。
国立長寿医療研究センターなどが紹介している研究では、趣味や学び、社会参加などを通じて、日頃から頭や感情を使っている人ほど、「認知予備力」と呼ばれる“脳のゆとり”を蓄えやすいと考えられています。完全な予防策があるわけではありませんが、「新しい刺激にほどよく触れている人は、脳の老化の影響を受けにくいかもしれない」というイメージです。
また、先ほどご紹介した厚生労働省のガイドには、散歩やウォーキングなどの軽い運動が、認知症を含むさまざまな病気のリスクを下げる可能性についても触れられています。さらに、高崎市で行われたウォーキング・プログラムの資料では、「歩きながら探し物をする」といった認知課題を組み込むことで、楽しみながら脳を活性化する工夫も紹介されています。
ここで大事なのは、「ハードなトレーニングを頑張る人だけが、脳を鍛えられる」という話ではない、という点です。少し速めに歩いてみる、歩きながら周りの変化を意識してみる、といった「ちょっとした工夫」が、脳への刺激になってくれると考えると、気持ちが楽になります。
旅行よりも身近な「ミニ冒険」のメリット
もちろん、じっくり時間をかけた旅行には、そこでしか得られない楽しさがあります。ただ、健康寿命という視点では、「回数」や「日常との結びつき」もとても大切です。
大きな旅行は、年に数回できれば良いほうかもしれません。体調や家族の予定、経済的な事情が重なれば、「ここ数年はほとんどどこにも行けていない」ということも珍しくありません。そうすると、「しばらく何の刺激もないまま」「家と職場、家と近所のスーパーだけ」という状態が長く続いてしまいます。
一方、「日常の非日常」は、ほんの30分〜1時間でも実行できるのが強みです。
- 近所をぶらぶらしながら、新しいお店を一軒だけ探してみる
- バスの終点まで乗ってみて、その周辺を少し歩いてみる
- 図書館や公民館の掲示板をゆっくり眺めて、新しいサークル情報を見つけてみる
こうしたミニ冒険なら、天気や体調の良い日を選んで、「今日はちょっとだけ足を伸ばしてみようかな」という気分が起きたときに実行できます。結果として、「月に数回〜週に数回」のペースで、脳に新しい刺激を届けることも夢ではありません。
さらに、「日常の非日常」は、準備の負担が小さいぶん、心のハードルも低くなります。「大きな旅行を計画すると疲れてしまう」「予定どおりに動けるか不安」という方でも、気楽に挑戦しやすいのがうれしいところです。
今日からできる“日常の非日常”アイデア集
いつもの散歩コースを、少しだけ変えてみる
すでに散歩やウォーキングを習慣にしている方は、「コースの一部だけ変えてみる」ことから始めてみると良さそうです。
- 曲がる角を一本ずらしてみる
- 逆回りコースで歩いてみる
- 時間帯を朝から夕方に変えてみる
それだけでも、「この時間はこんな店が開いているんだ」「ここから夕焼けが見えるんだ」と、新しい発見が生まれます。見慣れたはずの景色の中に、意外とたくさんの変化が隠れていることに気づくかもしれません。
「初めての店」「初めてのメニュー」にチャレンジしてみる
食事やお茶の時間も、ちょっとした非日常を作りやすい場面です。
- まだ入ったことのないカフェや喫茶店に行ってみる
- いつもと違う料理を注文してみる
- スーパーで、見たことはあるけれど買ったことのない食材を一つ選んでみる
舌に新しい味や香りが届くと、それだけで脳は「これはなんだろう?」と働き始めます。店員さんと一言二言会話をしてみるのも、立派な脳のトレーニングになります。「今日は初めて〇〇を食べてみた」という小さな出来事が、日記の一行になるだけでも、心が少し豊かになるものです。
「時間帯」を変えて、同じ場所を楽しんでみる
同じ場所でも、朝・昼・夜で雰囲気がガラッと変わることがあります。
- いつも朝に歩く公園を、あえて夕方に行ってみる
- 昼休みにしか行ったことのない神社に、休日の朝ゆっくりお参りしてみる
- 夜の商店街を、明るい時間帯に歩いてみる(またはその逆)
時間帯が変わると、すれ違う人の雰囲気や、聞こえてくる音、匂いまでも変わります。「同じ場所なのに、こんな表情もあったんだ」と感じること自体が、脳にとって新鮮な刺激になります。
五感をフル活用して「旅人モード」になる
遠くへ行かなくても、気持ちだけ「旅人モード」に切り替えることもできます。
- 歩きながら、「今日は音に集中してみよう」と決めて、鳥の声や車の音、人の話し声に耳を澄ませる
- 「今日は匂いに注目してみよう」と決めて、パン屋さんや花壇、土の匂いなどを意識してみる
- 気になったものをスマホで一枚だけ写真に撮って、「今日の一枚」として記録する
こんなふうに、テーマをひとつ決めて街を歩くだけでも、いつもの景色が違って見えてきます。小さな発見を家族に話したり、友人にメッセージで送ってみたりすると、会話のきっかけにもなります。
体力に自信がなくても楽しめるようにするポイント
「おもしろそうだけれど、長く歩く自信がない」「持病があって、あまり無理はできない」という方もいると思います。そんなときは、「ミニ冒険のハードルをうんと下げる」ことから始めてみましょう。
- 駅までの道を、ほんの数分だけ遠回りしてみる
- バスの一つ手前の停留所で降りて、ゆっくり歩いてみる
- 商業施設の中で、行ったことのないフロアを一つだけのぞいてみる
歩く距離が短くても、「初めての景色」「初めての店」は十分に脳への刺激になります。また、帰り道に疲れを感じたら、迷わずエスカレーターやエレベーター、バスやタクシーを使ってかまいません。「頑張って歩ききる」ことよりも、「またやってみようと思える経験にする」ことのほうが、ずっと大事です。
体調や持病について気になる点がある場合は、かかりつけ医に相談しながら、自分に合った範囲で楽しめると安心ですね。
外に出られない日も、「机上のミニ旅行」で脳を刺激する
雨の日や、体調がいまひとつの日は、無理に外出する必要はありません。そんなときこそ、自宅でできる「机上のミニ旅行」が役に立ってくれます。
- 地図帳や地図アプリで、行ったことのない街を眺めてみる
- 昔の旅行写真を眺めて、「このときはこんなことがあったな」と思い出話をしてみる
- ガイドブックや雑誌を眺めて、「いつか行ってみたい場所リスト」を作る
- バーチャルツアー動画や街歩き動画を、テレビ代わりに流してみる
実際に歩いていなくても、目から入ってくる情報は「新しい景色」です。少し元気が戻ってきたら、「地図で見たあの近所の神社だけ、週末に行ってみようかな」と、次のミニ冒険のきっかけになるかもしれません。
ひとりで楽しむ?誰かと楽しむ?ミニ冒険のスタイル
「日常の非日常」は、ひとりでも、誰かと一緒でも楽しめます。どちらが正解ということはなく、その日の気分や体調に合わせて選べると良さそうです。
ひとりでのミニ冒険は、自分のペースで自由に動けるのが魅力です。気になる路地を見つけたら、ふらっと曲がってみても良いですし、「今日は少し疲れたから、ここで引き返そう」と途中で予定を変えることもできます。自分の感覚を大事にしながら歩く時間は、ちょっとした瞑想のような心地よさがあります。
一方で、家族や友人と一緒にミニ冒険をすると、「会話」という刺激が加わります。同じ景色を見ていても、「私はここが気になる」「私はあっちの店が気になる」と、感じ方の違いに気づくことができます。それを話し合うこと自体が、立派な脳トレになります。
「月に一度は、配偶者と“新しいカフェ探しデー”を作る」「友人と、“まだ降りたことのない駅で待ち合わせする会”を企画する」など、ちょっとしたイベントにしてしまうのも楽しそうですね。自治体によっては、健康寿命の延伸を目指したウォーキングイベントや街歩き企画を行っているところもあります。たとえば、埼玉県の健康長寿関連の市町村取組事例では、ウォーキング教室や脳トレマット運動など、地域での工夫が紹介されています。お住まいの地域の広報紙やホームページをチェックしてみると、参加しやすい企画が見つかるかもしれません。
小さな記録を残すと、脳も心も喜びやすい
ミニ冒険を続けていくうえでおすすめなのが、「一言日記」や「写真メモ」です。
- 手帳やスマホに、「今日は〇〇通りを初めて歩いた」「駅前に新しい花壇を見つけた」など、一行だけメモを残す
- その日の「いちばん印象に残った景色」を、一枚だけ写真に撮る
- 撮った写真を後から見返して、「この日は暑かったな」「このあとに食べた〇〇がおいしかったな」と思い出す
こうした小さな記録は、後から見返したときに、その日の空気感までよみがえらせてくれます。「今月はこんなに新しいことをしていたんだ」と気づけると、自分の頑張りを自然と認められるようになり、自己肯定感のアップにもつながりやすくなります。
私自身の「日常の非日常」体験
ここで少し、私自身の経験のお話もさせてください。ライザップに通っていたころ、最初の一歩は「自宅から最寄り駅までの歩き方を意識して変えてみる」ことでした。姿勢を少しだけ伸ばしてみたり、信号の一本手前で曲がって別ルートを歩いてみたりするだけでも、「いつもの通勤路」が少し違って見えてきたのをよく覚えています。
トレーニングそのものの体験は、別の記事に詳しくまとめていますが、今振り返ると、「大きな決断」よりも、「日常の中の小さな一歩を、あきらめずに積み重ねたこと」が一番の収穫だったように感じます。そのときの様子は、もしご興味があれば、私の体験をまとめたライザップ体験記ブログ※33キロダイエット成功ブログ大公開も参考になるかもしれません。
健康寿命を支えるのは、「特別な一日」より「いつもの一日+少しの変化」
健康寿命という言葉を耳にすると、「運動を増やさなきゃ」「食事をもっと気をつけなきゃ」と、つい義務のように考えてしまいがちです。でも、人間は「やらなきゃ」と思いながら続けることが、一番苦手な生き物なのかもしれません。
その点、「日常の非日常」は、「やってみたい」「ちょっと楽しそう」という気持ちから始めやすい工夫です。特別な準備はほとんど必要なく、「いつもの一日に、ほんの少しの変化を足してみる」だけで完結します。
- 遠くまで行かなくても、近所の路地や公園は立派な“探検の舞台”
- 長時間歩けなくても、数分だけの遠回りも立派なミニ冒険
- 体調がすぐれない日は、地図や写真を眺める「机上旅行」も立派な刺激
こうした小さなチャレンジを重ねていくことで、「今日も新しい何かがあった」「今月も、いろいろな発見があった」と感じられる日が増えていきます。その積み重ねこそが、心のハリや、脳の若々しさ、そして健康寿命をそっと支えてくれるのではないかと思っています。
人生の後半は、「大きな冒険を諦める時期」ではなく、「日常の中に、小さな冒険をたくさん散りばめていく時期」と捉えることもできます。今日の帰り道、ほんの少しだけルートを変えてみる。その一歩が、未来の自分への、やさしいプレゼントになるかもしれません。
※本記事は、特定の病気の診断や治療をすすめるものではなく、日常生活の工夫としての情報提供を目的としています。具体的な症状や治療については、必ず医師などの専門家に相談してください。

