【健康寿命】「よく噛むほど健康」その科学的な根拠を検証

「よく噛んで食べたほうがいいよ」とは、子どものころから耳にしてきた言葉だと思います。
一方で、忙しい毎日の中では、つい早食いになったり、テレビを見ながら口だけ動かしていたり……。「本当にそんなに差が出るの?」と感じる方も多いかもしれません。
この記事では、健康寿命(元気に動ける期間)という視点から、「よく噛む」ことの科学的な根拠や、今日からできる実践のコツを整理してみます。
書いているのは、ライザップでの減量経験をきっかけに「人生後半のボディメイク」と向き合うようになった、サイト運営者の和久井朗です。食事指導を受ける中で、私自身も「噛む回数」を意識するようになりました。
難しい専門用語はなるべく避けつつ、国や公的機関の情報も参考にしながら、ゆっくり噛むメリットを一緒に見ていきましょう。
目次(表示させると見出しが見られますよ!)
よく噛むことが健康寿命のキーワードになる理由
健康寿命という言葉は、「何歳まで生きるか」よりも「何歳まで自分の足で歩き、好きなものをおいしく食べられるか」という視点に近い言葉です。
その意味で、「噛む」という行為はかなり重要な位置にあります。食べるたびに必ず行う動作であり、年齢を重ねるにつれて差が出やすい部分でもあるからです。
たとえば、国の情報サイト「e-ヘルスネット」では、速食いの習慣がある人ほど肥満の人が多いことや、「ゆっくりとよく噛むこと」が肥満対策の一つとして期待されていることが紹介されています。さらに、歯を失って噛みにくくなると、肉や野菜を避けがちになり、栄養バランスが崩れる可能性があるともまとめられています。そこで「食べ物をよく噛めること」が健康と深く関わっている、とされています。
また、農林水産省の食育ページでも、よく噛んで食べることで満腹感が得られやすくなり、速食いを防いで肥満予防につながるといった説明がされています。噛むことは単に「マナー」ではなく、生活習慣病や体型管理にも影響しうる生活習慣として位置づけられているようです。
こうした公的な情報を眺めてみると、「よく噛むと健康に良い」というのは根拠のないスローガンではなく、研究や疫学調査にもとづいている部分があることがわかります。
「よく噛むほど健康」といわれる主なポイント
では、噛む回数が増えると、体の中で何が変わるのでしょうか。ここでは、よく噛むことが健康寿命に関係すると考えられているポイントを、イメージしやすいように整理してみます。
1. 満腹感が得られやすくなり、食べすぎを防ぎやすくなる
一口をよく噛んでいると、同じ量の食事でも「食べた」と感じるまでの時間が長くなります。その間に、胃の中の食べ物が少しずつ消化され、血糖値もゆっくり上がっていきます。
よく噛んでゆっくり食べると、脳の中の「満腹中枢」が働きやすくなり、「もうそろそろ十分かな」と感じやすくなると考えられています。その結果、無意識のうちにおかわりが減ったり、ドカ食いをしにくくなる人も多いようです。
逆に、かきこむように食べてしまうと、満腹感を感じる前に食べ終わってしまい、「お腹がはちきれそうになってから満腹に気づく」ことも起こりやすくなります。これが、早食いと肥満の関連が指摘されている一因とされています。
2. 血糖値の急上昇をゆるやかにする可能性
食事の内容にもよりますが、ゆっくり噛んで食べることで、食後の血糖値の上がり方が穏やかになるとする報告もあります。噛むことで唾液とよく混ざり、胃や腸での消化・吸収のスピードが調整されるためと考えられています。
もちろん、噛むだけで血糖値のすべてがコントロールできるわけではありませんが、「同じメニューを食べるなら早食いよりも、よく噛んでゆっくり味わったほうが体にはやさしいかもしれない」とイメージしてもらうと良いかもしれません。
食後の眠気やだるさが強い方は、まずは「食事の時間を5分だけ長くして、噛む回数を少し増やしてみる」といった小さな工夫から試してみるのも一案です。
3. 消化を助け、胃腸への負担を軽くする
噛むことの一番わかりやすい役割は、「食べ物を細かくくだくこと」です。歯で細かく砕いたり、すりつぶしたりすることで、胃や腸は「すでにある程度細かくなった食べ物」を迎え入れることができます。
大きなかたまりのまま飲み込んでしまうと、胃はそれを消化するために多くのエネルギーや時間を使う必要があります。よく噛んでおくことは、胃腸の「下準備」を手伝っているようなものです。
年齢を重ねると、胃もたれや胸やけを感じやすくなる方が増えますが、こうした症状の一部は、食べ方の工夫でやわらぐこともあるようです。もちろん、続く症状がある場合は医療機関の受診が基本ですが、日々の食事では「噛む」ことを意識してみると、体感が変わる人もいるのではないでしょうか。
4. 脳への刺激になり、認知機能の維持にも関係する可能性
噛む動きは、あごや顔の筋肉だけでなく、脳にも刺激を送っているとされています。ガムを噛んだときの脳血流の変化を調べた研究では、噛んでいる間に脳の一部の血流が増えるという結果も報告されています。
こうしたことから、「よく噛むことは脳を活性化させ、記憶力や集中力の維持に役立つ可能性がある」と考えられています。高齢期の研究では、噛む力や歯の状態と認知機能の関係を探るものも増えてきており、まだ結論が出ていない部分もありますが、噛むことが脳にとって大事な刺激であることはほぼ間違いなさそうです。
クロスワードパズルや計算問題だけが「脳トレ」ではなく、「よく噛んで食べること」も、日常の中でできるゆるやかな脳トレの一つ、ととらえてみると気持ちが楽かもしれません。
5. 口腔機能の維持とフレイル予防につながる期待
厚生労働省の情報では、残っている歯の本数が少ない人や、咀嚼(そしゃく:噛むこと)の効率が低い人ほど、体重減少や低栄養のリスクが高いという研究が紹介されています。噛めないと、柔らかいものや麺類中心の食事になり、どうしてもたんぱく質やビタミン類が不足しがちになるためです。
栄養状態が悪くなると、筋肉量が落ち、転びやすくなったり、いわゆる「フレイル(虚弱)」が進みやすくなると考えられています。噛む力を保つことは、食事を楽しむだけでなく、「歩く力」や「体を支える力」を守ることにもつながっていきます。
よく噛む習慣と、歯や口のケアはセットで考えると、健康寿命の土台がしっかりしてくるイメージが持ちやすいと思います。
科学的な根拠をやさしくチェック
ここからは、「よく噛む」ことについて、公的な情報や研究でどのように語られているのかを、できるだけやさしく整理してみます。
速食いと肥満の関係が示されている
厚生労働省の「e-ヘルスネット」には、食べる速さと体格指数(BMI)の関係を調べた疫学調査が紹介されています。そこでは、自己申告で「速く食べる」と答えた人ほど、現在のBMIが高い傾向にあることや、20歳のころからの体重増加が大きい傾向にあることが示されています。
もちろん「早く食べる=必ず太る」という単純な話ではありませんが、「速食いの人には肥満の人が多い」という関連が見られた、という報告は複数あるようです。これらの結果から、「ゆっくりよく噛むこと」が肥満予防の行動療法の一つとして位置づけられています。
「噛ミング30」と咀嚼回数の目安
厚生労働省の検討会では、「一口30回噛むこと」をめざす「噛ミング30(カミングサンマル)」という運動も提唱されています。食べ物を一口入れたら箸を置き、いつもより5回多く噛むようにする、といった実践のヒントも資料で紹介されています。
また、日本歯科衛生士会がまとめたパンフレットなどでは、現代人の一口あたりの平均咀嚼回数は10〜20回程度とされ、「理想は30回以上」といった目安も示されています。
ただし、「30回噛めば必ず健康になる」という意味ではなく、「今より少し多く噛んでみる」ための具体的な目標として考えられているようです。実際には、食べ物の硬さや口の状態、持病の有無などによって、ちょうど良い回数は人それぞれです。
「ゆっくり食べ、よく噛む」習慣と体重との関連
最近では、「ゆっくり食べ、よく噛む」習慣と、肥満・過体重の有無との関連を幅広い年代で調べた研究も出てきています。国内の研究チームが2025年に発表した報告では、よく噛んでゆっくり食べる人ほど、肥満や過体重である割合が低い傾向がみられた、とされています。
この研究では、「よく噛んで味わって食べること」がその習慣を促す可能性や、口腔の健康状態がそうした食べ方の維持に関係している可能性なども示唆されています。あくまで「関連」であり、「これをすれば必ず痩せる」という意味ではありませんが、日々の食べ方と体重とのつながりを考えるうえで参考になる知見と言えそうです。
口腔機能の低下と栄養状態・フレイルの関係
口腔機能と全身状態の関係についても、さまざまな研究があります。たとえば、高齢者を対象とした調査では、残存歯数が少ない人や、咀嚼効率の低い人ほど、体重減少や低栄養のリスクが高いことが報告されています。
噛みにくくなると、どうしても肉・魚・野菜など「しっかり噛む必要がある食材」を避ける傾向が強くなり、結果として栄養バランスが崩れてしまう、という流れが考えられています。
このように、「噛む力」「歯の本数」「口の動き」は、単に食事の楽しさだけでなく、筋力や免疫力、日常生活の自立度とも関係しているようです。健康寿命を考えるうえで、「噛む」という行為はかなり奥が深いテーマだと感じます。
何回くらい噛むとよいのか? 目安との付き合い方
「よく噛むことが大切なのはわかったけれど、実際には何回くらい噛めばいいの?」という疑問も出てくると思います。
先ほど触れたように、日本歯科衛生士会などでは、「現代人の平均は10〜20回、目安として30回以上」という資料があります。厚生労働省の「あなたは何回噛んでいますか?」というリーフレットでも、「目標は一口30回噛むこと」と書かれています。
とはいえ、いきなり全ての一口を30回噛もうとすると、かなり大変ですし、途中で嫌になってしまうこともあると思います。そこで、ここでは「目安との付き合い方」をやさしく考えてみます。
- まずは「いまより5回多く噛む」ことから始める
- 一食のうち、最初の10口だけ意識して噛む
- 噛みやすいおかずから練習する(サラダ・おひたし・肉など)
- 噛んでいる間は箸をいったん置いてみる
こうした小さな工夫でも、「ふと気づくと前よりゆっくり食べるようになっていた」という変化が起こりやすくなります。数字に縛られすぎず、「自分なりのペースで、噛む回数を少しずつ増やしていく」くらいの感覚で取り組めると、長続きしやすいと感じます。
今日からできる「よく噛む」習慣づくりのコツ
ここからは、特に40〜70代の方が「今からでも取り入れやすい」噛み方の工夫をいくつか紹介してみます。難しいことはせず、できそうなものを一つだけ選んで試してみてください。
1. 一口を小さくする
噛む回数を増やす一番シンプルな方法は、「一口の量を小さくする」ことです。口いっぱいに頬張ってしまうと、どうしても飲み込むのを急ぎたくなってしまいます。
ご飯なら「お茶碗のふちに沿って、少しだけすくう」、肉や魚なら「一口サイズに切ってから口に入れる」といった小さな工夫だけでも、噛む回数は自然と増えやすくなります。
2. 箸やフォークをいったん置く
食べながら、次の一口の準備をしてしまうクセはありませんか? 私も以前は、噛んでいる途中でもつい箸を動かしてしまっていました。
「一口入れたら、いったん箸を置く」というルールを作ると、自然と噛む時間が長くなります。最初は少し物足りない感じがするかもしれませんが、慣れてくると「味わって食べている感覚」が出てきて、満足度も変わってきます。
3. スマホやテレビを「ながら見」しない時間をつくる
スマホやテレビを見ながらの食事は、どうしても「味より画面」に意識が持っていかれがちです。気づけば、口だけが機械のように動いていた……ということもあります。
すべての食事でやめるのは難しくても、「一日のうち一食だけは、画面を見ずに食べる」と決めてみると、その一食に集中しやすくなります。家族や友人と会話を楽しみながら食べる時間を増やすのも、自然と噛む回数が増えるきっかけになります。
4. 噛みごたえのある食材を少しプラスする
噛む回数を増やすために、食事に「噛みごたえのあるもの」を少し加えるのも一つのアイデアです。たとえば、
- ご飯に雑穀を少し混ぜてみる
- サラダにれんこん・ごぼう・きのこ類を加える
- やわらかい煮物だけでなく、薄切り肉のソテーや焼き魚もときどき取り入れる
などです。歯や入れ歯の状態によっては難しいものもあるので、無理のない範囲で、「自分にとってちょうどいい歯ごたえ」を探してみてください。
5. 外食やコンビニご飯でも「噛む」を意識する
仕事帰りの外食やコンビニご飯が多い方でも、噛む習慣は工夫しだいで育てることができます。
たとえば、牛丼や麺類だけで済ませるのではなく、サラダや小鉢を一品足して、そちらから先にゆっくりよく噛んで食べる。おにぎりを食べるときは、一口ごとにしっかり噛み、飲み物で流し込まないようにしてみる――そんな小さな工夫でも、積み重ねると大きな差になります。
歯・口のケアもセットで考える
よく噛むためには、「噛む力」そのものを守ることも大切です。歯や歯ぐきの状態、入れ歯のフィット感、舌や唇の動きなど、口の中のいろいろな機能が協力して初めて、快適に噛むことができます。
先ほど触れたように、厚生労働省の情報では、口腔機能が低下すると栄養バランスが崩れ、フレイルやサルコペニア(筋肉量の低下)につながる可能性があると紹介されています。健康寿命を考えるうえで、「歯を守る」「口の機能を保つ」ことはとても重要なテーマです。
年に1〜2回程度、かかりつけの歯科で定期的にチェックしてもらったり、気になる症状があるときは早めに相談したりすることで、噛む力の低下を防ぎやすくなります。なお、具体的な受診のタイミングや治療内容については、必ず歯科医師・歯科衛生士など専門職にご相談ください。
よく噛むこととボディメイク・間食対策の関係
ここからは、私がライザップで減量に取り組んでいたときの体験も交えながら、「よく噛むこと」とボディメイクの関係を少しだけお話しします。
ダイエット指導を受けていると、どうしても「何を食べるか」に意識が集中しがちです。私も最初は、糖質の量やカロリーばかりを気にしていました。
ところが、実際に食事を管理してみると、「同じメニューでも、食べ方によって満足感が全然違う」ということに気づきました。忙しい日の昼食をバタバタとかきこんだ日は、夕方になるとお腹が空いてしまい、間食の誘惑に負けそうになることが多かったのです。
一方で、意識して一口を小さくし、よく噛んで食べた日は、同じ量でも「けっこう食べたな」という感覚が残りやすく、夕方のドカ食いも減っていきました。噛むことで満腹感が得られやすくなる、という話を身をもって感じた瞬間でした。
「夕方になるとつい甘いものに手が伸びてしまう」「間食が止まらない」という方は、まずは食事そのものの噛み方を見直してみるのも一つの方法だと思います。間食対策については、別の記事「【保存版】間食が止まらない人へ|RIZAP式“置き換えテンプレ”で夕方の爆食を止める」で、実践的なアイデアをまとめていますので、合わせて参考にしてみてください。
よく噛むことは、ダイエットの「裏技」ではなく、地味だけれど確かな土台づくりだと感じています。体重計の数字ばかりを追いかけて疲れてしまったときほど、「今日はゆっくりよく噛めたかな?」という視点を思い出してみると、心も少し軽くなるかもしれません。
「よく噛む」習慣は今からでも間に合う
ここまで、「よく噛むほど健康」といわれる理由や、科学的な背景、実践のコツなどを見てきました。
- よく噛むことは、満腹感や血糖値、消化、脳への刺激など、さまざまな面で体に良い影響を与える可能性がある
- 速食いの習慣と肥満との関連が国内外の研究で指摘されており、「ゆっくりよく噛むこと」は肥満対策の一つとして位置づけられている
- 口腔機能が低下すると、栄養バランスや筋力の低下、フレイルの進行につながる可能性があり、「噛める状態」を保つことが健康寿命の土台になる
- 「一口30回」はあくまで目安であり、「今より少し多く噛む」ことから始めるほうが続けやすい
- 一口を小さくする、箸を置く、画面を見ながら食べない時間をつくる、といった小さな工夫でも、噛む回数は自然と増えやすくなる
噛み方は、年齢を問わず、今日からでも変えられる生活習慣です。特別な道具もお金も必要ありません。「ちょっと意識してみようかな」と思えたその瞬間から、健康寿命の土台づくりが静かにスタートしています。
40代・50代・60代・70代と、人生の折り返しを過ぎてからの体は、若いころと比べて変化がゆっくりですが、その分「小さな習慣の積み重ね」がじわじわ効いてくるように感じます。
完璧を目指す必要はありません。三食のうちの一食、さらにその中の数口だけでも構いません。「よく噛んで味わう時間」を、今日のどこかにそっと差し込んでみてください。その小さな一歩が、数年後・数十年後のあなたの健康寿命を、静かに支えてくれるかもしれません。
このサイトでは、こうした「ゆるく続けられる健康寿命づくり」のヒントを、これからもお伝えしていきます。一緒に、自分らしく長く歩ける体を育てていきましょう。

